こんにちは、Antoineです。

「ボルドーとブルゴーニュ、結局どっちが上なの?」

ワイン愛好家の間で、これほど議論が尽きないテーマはありません。

答えを先に言いましょう。「どちらが上か」という問いそのものが、ナンセンスです。**

なぜなら、この2つの産地は、そもそも目指しているものが違うのです。サッカーと野球を比べて「どちらが上か」と問うようなもの。比較すべきは優劣ではなく、違いの本質です。

今日は、この2大ワイン王国の「決定的な違い」を、歴史・土壌・哲学という3つの視点から解き明かしていきます。

1. 歴史が生んだ「性格」の違い

ボルドー:商人が育てた「国際都市」

ボルドーは、古くから貿易港として栄えた都市です。

12世紀、ボルドーはイングランド王の領土でした。大西洋に面した港からは、毎年何万樽ものワインがイギリスへ輸出されていたのです。

この「輸出ビジネス」こそが、ボルドーの性格を決定づけました。

  • 大量生産の必要性 → 大規模なシャトー経営
  • 海外の顧客を満足させる → 安定した品質管理
  • 投資家・商人の参入 → ビジネスライクな運営

つまり、ボルドーは「ビジネスの論理」 で動いてきた産地なのです。

ブルゴーニュ:修道士が守った「聖地」

一方のブルゴーニュは、全く異なる道を歩みました。

ここでワイン造りを発展させたのは、シトー派の修道士たちです。彼らは1000年もの間、祈りを捧げながら畑を耕し、土壌を観察し、区画ごとの違いを記録し続けました。

「神に捧げる最高のワインを造る」——これが彼らの使命であり、ビジネスは二の次でした。

  • 土地への敬虔な態度 → 畑ごとの個性を重視
  • 小規模な区画管理 → 家族経営のドメーヌ
  • 質への執着 → 量より質

ブルゴーニュは「精神性の論理」 で動いてきた産地なのです。

2. 土壌と気候の決定的な違い

ボルドー:砂利が生んだ「パワー」

ボルドーの土壌の主役は砂利 (**グラヴェル) です。

大西洋に面した温暖な海洋性気候のもと、この砂利質土壌は絶妙な役割を果たします。

  • 日中: 太陽熱を蓄え、ブドウを温める
  • 夜間: 溜めた熱を放出し、急激な冷え込みを防ぐ
  • 排水性: 余分な水を逃がし、ブドウの根を健康に保つ

この環境で育つカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローは、力強く、構造がしっかりした味わいになります。

ブルゴーニュ:石灰岩が生んだ「エレガンス」

ブルゴーニュの土壌は石灰岩泥灰岩 (**マール) が主体です。

内陸の大陸性気候は、夏は暑く冬は厳しい。この寒暖差がブドウに酸味とミネラルを与えます。

そして、前回の記事でもお伝えした通り、ここでは100メートル離れただけで土壌が劇的に変わるのです。

この繊細な土壌から生まれるピノ・ノワールは、エレガントで複雑、余韻が長い味わいになります。

項目ボルドーブルゴーニュ
主な土壌砂利、粘土石灰岩、泥灰岩
気候温暖な海洋性寒暖差のある大陸性
ワインの性格パワフル、構造的エレガント、繊細

3. ブドウ品種の哲学

ボルドー:ブレンドの芸術

ボルドーの赤ワインは、基本的に複数品種のブレンドで造られます。

主要品種:

  • カベルネ・ソーヴィニヨン: 骨格を形成
  • メルロー: まろやかさを補う
  • カベルネ・フラン: 香りの複雑さを加える

毎年の天候に合わせてブレンド比率を調整することで、安定した品質のワインを造り続けることができます。

これはまさに、商業都市ボルドーらしいリスク分散の発想です。

ブルゴーニュ:単一品種への献身

ブルゴーニュでは、赤ワインはピノ・ノワール100%、白ワインはシャルドネ100% が原則です。

ブレンドという「保険」を使わないため、その年の天候や畑の個性がダイレクトに味に反映されます。

良い年は素晴らしいワインが生まれ、悪い年は正直に「その年の姿」を映し出す。

これは修道士たちの「ありのままを受け入れる」 精神の表れとも言えるでしょう。

4. 所有形態:シャトー vs ドメーヌ

ボルドー:「シャトー」という企業体

ボルドーでは、畑からワイン造りまで一貫して1つの「シャトー」が管理します。

シャトー・マルゴーやシャトー・ラフィットのような名門は、数十ヘクタールの広大な畑を所有。設備投資も莫大で、まるでワイン製造の大企業のようです。

オーナーは貴族、銀行家、保険会社、さらには外国の投資家など多彩。純粋な「家族経営」は少数派です。

ブルゴーニュ:「ドメーヌ」という家族の誇り

ブルゴーニュでは、畑の所有権は極めて細分化されています。

フランス革命後のナポレオン法典により、土地は子供たちに均等に相続されることになりました。その結果、同じ畑を数十人の生産者が分割所有している状態が生まれたのです。

例えば、有名な「クロ・ド・ヴージョ」は50ヘクタールの畑を約80人の生産者が所有しています。

各ドメーヌは数ヘクタール程度の小規模経営。家族が何世代にもわたって畑を守り、自分の名前をかけてワインを造る。これがブルゴーニュの美学です。

項目ボルドーブルゴーニュ
呼称シャトードメーヌ
規模大規模(数十ha)小規模(数ha)
オーナー投資家・企業も多い家族経営が主流
ワインの個性シャトーの名が品質保証畑の名が品質保証

5. 格付けシステムの思想

ボルドー:シャトーを格付けする

1855年、パリ万博に合わせてボルドーの格付けが誕生しました。

これはシャトー (**生産者) をランク付けするシステム。1級から5級まで、61のシャトーが格付けされています。

つまり、「誰が造るか」が重要視されているのです。

ブルゴーニュ:畑を格付けする

ブルゴーニュの格付けは (**クリマ) に対して行われます。

  • グラン・クリュ (**特級): 最高の畑
  • プルミエ・クリュ (**1級): 優良な畑
  • ヴィラージュ: 村名ワイン
  • レジオナル: 地域名ワイン

同じグラン・クリュの畑から、複数の生産者が異なるワインを造る。だから「誰が造ったロマネ・コンティの隣の畑か」が重要になるのです。

ボルドー: 「シャトー・マルゴーを買えば間違いない」ブルゴーニュ**: 「誰のシャンベルタンを買うかが問題だ」

この違い、分かりますか?

どちらを選ぶべきか?

最後に、実践的なアドバイスを。

ボルドーがおすすめな人

  • 安定した品質を求める方
  • 力強い味わいが好きな方
  • 牛肉のステーキなど、重い料理と合わせたい方
  • 投資や長期保存を考えている方

ブルゴーニュがおすすめな人

  • 繊細な表現を楽しみたい方
  • 畑ごとの違いを探求したい方
  • 鳥料理やキノコなど、繊細な料理と合わせたい方
  • ワインの"語りがい" を求める方

まとめ

ボルドーとブルゴーニュの違いを一言でまとめると:

  • ボルドー: 商人が育てた、ビジネスと安定のワイン
  • ブルゴーニュ: 修道士が守った、精神性と個性のワイン

どちらが優れているかではなく、自分がどんなワイン体験を求めているかで選んでください。

そして、できれば両方を飲み比べてみてください。2つの王国の「違い」が分かった時、ワインの世界は何倍も面白くなりますから。

À bientôt!🍷


Antoine Renaud(アントワーヌ・ルノー) フランス・リヨン出身のソムリエ 京都在住3年目、日本文化を学び中